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さて、今回はパースペクター式立体音響、フィルムにはパースペクタ・ステレオフォニック・サウンドとクレジットされている、音響方式について触れます。
1957年5月に、弊社が映画館向けに作成した小冊子『東宝スコープの公開について―その説明と企画―』によりますと、「当社に於ける大型映画並に立体録音方式は昭和二十八年以来、砧撮影所技術部門に於て研究を重ね、昭和二十九年数篇を試作し、略々完成の域に到達致しましたので、之を「東宝スコープ」と命名致しました。」とあります。つまり、東宝独自のシネマスコープサイズの画面と、パースペクター方式はセットになっていたようです。
「東宝スコープの説明」の頁には、「一、東宝スコープはどんな様式か?」とあり、スコープ撮影用レンズの説明、その画面サイズ、特色が記されており、続いて「一、東宝スコープの録音方式はどうか」の項目があります。少し長くなりますが、その内容を転記します。
「1、東宝スコープはパースペクター式立体音響が採用されて居ります。当社は昭和二十九年以来、立体録音の研究を続けて居りましたが、この多年の研究の結論からMGMのパースペクター方式が我が国の映画界に於ては最も適切であることが確認され、之を採用致すことに決定致しました。 2、随ってトーホースコープ上映劇場は、パースペクターサウンドシステム(インテグレーター、プリアンプ一組、メンアンプ三組及びステージスピーカー三組が必要となります)この施設のない劇場に於ては、同一プリントにてシングルにても映写可能であります。3、尚本格的立体音響である四チャンネルトラックの録音ができる態勢も完了しましたので、必要があれば何時でも磁気四本サウンドトラックを製作できます。」
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パースペクター方式がアメリカから輸入されたこと、また、パースペクター方式のプリントでも従来どおりモノラル(シングルと記載されています)で上映できること。そして、磁気立体音響の準備が整ったことがわかります。画面の大型化に伴って、音響も大型化させようとの試みが判ります。
小冊子はこの後、上映設備の説明と、スクリーンの大きさによっての工事予算表と頁が続き、最後に「東宝スコープの企画について」で閉められています。
また長くなりますが「東宝スコープに対する当社の行き方」という項を転記します。
「当社は今後の製作方針として東宝スコープと従来の普通映画の並立を考えて 居ります。アメリカに於ても、既に映画の内容により両方式を採用して居るのは御承知の通りであります。当社はたとえば「宮本武蔵シリーズ」「七人の侍」「ゴジラ」「ジャンケン娘」等のスペクタクル傾向の作品はすべて今後は東宝スコープとし、「浮雲」「夫婦善哉」「雪国」の如き文芸映画で、普通版の方がむしろその表現型式として適切であります場合は、引続いて之を使用致します。即ちその内容により適切なる型を採用すると云う行き方であります。然して、当分の間月一本乃至二本の東宝スコープ版を公開する予定であります。」 そして、企画作品が羅列されています。「大当たり三色娘」「地球防衛軍(“モゲラ”)」「太平洋の翼」「隠し砦の三悪人」などなど…
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パースペクター方式は、モノラルのサウンドトラックの中に可聴範囲以下の音を、アンプのコントロール信号として録音させ、そのコントロール信号によって、左、中央、右のスピーカーの音量を調整し、音響に立体感を持たせるものです。東宝スコープとセットで導入されたことから、特撮映画ファンの間ではその存在は有名でしたが、映画界の斜陽化に伴って、また磁気式四チャンネルの方式が確立したことも合って、いつの間にか消えていったシステムです。
今回、黒澤明監督作品のDVD化にあたって、パースペクター方式のデコーダー(小冊子ではインテグレーターと記されていたものです)を復刻、というか、当時の技術者の協力で新たに作りました。『隠し砦の三悪人』 『用心棒』 『椿三十郎』 『悪い奴ほどよく眠る』 が、パースペクター式立体音響で楽しめます。現在のドルビーデジタル方式などのサラウンドと比べると、もともとモノラルなので限界はありますが、製作者の音響演出が楽しんでいただけることと思います。
但し、センターチャンネルの設定が前提で作られている音響なので、通常の2chステレオでは、正しく再生されないことがあります。その場合はモノラル音声も収録してありますので、モノラルでお楽しみ下さい。 |