東宝は昭和30年代、映画のスクリーンサイズがスタンダードからスコープサイズに変わってゆく際に、いち早く立体音響に取り組んでいました。立体音響というと物々しい感じがしますが、皆さんおなじみ、というか今やテレビ、AMラジオでもおなじみのステレオ音声です。

 ハリウッドでは70mm映画が6チャンネルの立体音響方式を採用し、映画は大型画面とそれにふさわしい迫力の音響を手に入れました。東宝では従来の35mmサイズでも、横長大型画面の東宝スコープを開発し、音響は「磁気多元立体音響」と名づけた4チャンネル・ステレオ方式を開発しました。
 この4チャンネルは前方右、前方左、前方中央、後方の4つのチャンネルを完全に独立させたもので、これまでは光学式にフィルムに縞模様で焼き付けられた音声を、カセットテープ、ビデオテープなどと同様の
磁気テープに収録したものです。これによって光学方式より良い音質を再生することが可能になりました。ただし、フィルムに磁気テープをコーティングした特殊な使用であるため、映写機も専用の物が必要で、全ての映画館で「磁気多元立体音響」方式の上映が行われてはいなかったようです。
 
 黒澤明監督作品では『天国と地獄』 『赤ひげ』がこの方式のサウンドトラックでした。DVDは
5.1chの再生ができるシステムなので、この音響テクノロジーの変遷をそのまま再現しております。つまり、サブ・ウーハー(0.1ch)がお休みで、リアチャンネルがモノラルになるわけです。当時の映画館と同じ、もしくは昭和30年代の映画館のスピーカーの性能を考えると、当時の映画館以上の音質と迫力で映画が楽しめるかもしれません。
 ちなみに『天国と地獄』と並ぶ東宝創立35周年記念作品
『キングコング対ゴジラ』も磁気多元立体音響を採用しており、DVDもその仕様で収録しています。聞き比べていただいて、「黒澤明対ゴジラ」夢の立体音響対決を楽しんではいかがでしょうか?